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昨年の秋口に話は遡る。長年の付き合いのある、ある雑誌社の編集長と二人、居酒屋 で酒を酌み交わし話をしている時のことである。

「北海道に僕のお世話になった人が 居てね。 ハンターなんだけど。彼のデザインしたナイフをお礼にと思っている。是非一本作っ てもらえないだろうか。」と相談された。酒の勢いで簡単に引き受けてまったのであ る。実にオッチョコチョイである。

その後、編集長から電話があり。 「図面が届いたから、そちらへ送るよ。」 「了解・・・ところでそのハンターとは誰なの?」 「北海道では鹿狩りでナンバーワンと言われている男だ。  ナイフの雑誌にも紹介されているよ。」 早速ナイフマガジンを見てみる。なんとすごい名人である。 もうこの道では50年のキャリアで、プロ中のプロとお見受けした。(実際はプロで はないらしい) で、私はこの道35年。 「う〜ん、やりがいがある。しかしこの名人の気に入るナイフが果たしてできるのだ ろうか?」  今まで何十年と我が社のスタッフと協力していろんな要望に応えてきたが、今回はな ぜかプレッシャーがかかる。

また、編集長からの依頼とは言え実際のデザインは名人のもの。直接本人と細かな打 ち合わせをして進めていかねばならないという緊張感と責任感から来るのだろうか、 プレッシャーが私の体中に重くのしかかる。しかし、名だたる鹿狩りの名人のナイフ を 作ることが出来るのだ。「これはやるしかない!」と開き直り、前に進む決心をし た。

早速デザイン図面がファックスで送られて来た。 「う〜ん、でかいナイフだ。ま、しかし、そんなに難しい仕事でもなさそうだ。」と 一安心。 しかし名人のデザインは”シンプル イズ  ベスト”そのものである。


図面を見ながらこのナイフの作り方あれこれ考えていると、またあのプレッシャーと 不安感が私の中で頭をもたげて来た。ああ、なんてオレは弱い男なんだ・・・

早速レイザー機で裁断するためのキャド製図を起こす。大体のサイズは名人より指定 されているので、その通りに寸法を図面に入れ込む。使用する鋼材はATS−34。 ブレードの厚みは5mm。刃付けはセレーション(波刃)。こればかりは手で付ける ことは面倒である。セレーション用の幅広の特殊なと石にデザイン通りの形状を入れ て行う。

さて、ここからは名人と直接打ち合わせをしなければならない。早速北海道の名人に 電話をした。 名人とは一面識もない。雑誌で見た名人は、なんと言ってもハンタープラトーンのボ スであり、独特の風格を放っていた。再度プレッシャーに襲われる。 緊張の自己紹介も終え、今回ナイフを作らせて頂くお礼を述べた。電話での話が 進むにつれ、私の胸にあった不安とプレッシャーは消え、すっかりリラックスしてい た。

名人の話しぶりは実に物腰が柔らかで、また誠実そのもの。ようやく私の中に思う存分 ナイフ作りが出来という安堵感が湧いてくるのであった。 色々聞きたいこと、やらねばならぬ事、等々。入念に打ち合わせを済ませ電話を切っ た。

一ヶ月もするとようやく名人の要求通りのナイフが完成した。早速名人に完成品を送 り、そのことを電話で伝えた。すると休日に猟に出かけるとのことであった。 休日明けに名人より電話が入った。送ったナイフで4頭のオス鹿を解体し、セレー ション刃 の使い勝手など試したが、結果は上々とのことであった。まずは一安心である。

で、ストレート刃でもう一本無理言いたいが・・。」とのご所望。即OKの返事を させて頂いた。

狩猟期間中なので大急ぎでその試作に取りかかった。 前回のセレーション刃のものと比べ、ブレードの厚みを0.1mm厚くして欲しいと のこと。 早速完成ナイフを名人に送りテストをしてもらった。今回は4頭のオス鹿の肋骨を叩 き切る など、随分荒っぽいテストであったらしいが、結果は全く大丈夫であったとのこと。 当初はセレーション刃のみでデザインしたが、ハードな作業の場面を考慮し、 ストレート刃も作ることになり、結果的には2本のナイフを提供することになったの である。

始めての大物の鹿でのテストをすること、それを狩猟期間中に行うこと等の条件の 下、 短期間に集中して作成したので、後からくる脱力感は相当のものであった。 しかし、名人に「最高に満足のいくナイフであった」と喜んでもらえたことに、私も 満足感で 一杯であった。

ほっとする私の頭に「この名人のナイフを、是非日本中の、いや、世界中のハンター に 使ってもらいたい」という思いが浮かび上がってきた。直ぐ北海道に電話をし その思いを伝え、製造許可を仰いだ。快く承諾してもらえた。 ハンティングナイフも何百、何千という種類があり、どれも見事であるが、私が今ま で 手掛けた中では、使いやすさ、切れ味、頑強さのどれを取っても最高のものが出来た と 自負している。

しかしやはり二度のテストでこんな素晴らしいナイフが出来たのも、名人の50年に渡る ハンティングのキャリア。確固たるナイフの使い手の知識から生まれ出たものである。 最後に名人にこのハンティングナイフを命名していただいた。

「トロフィーハンターでいいんじゃないですか」と。

                                                澄雄



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